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高知地方裁判所 昭和47年(ワ)191号 判決 1974年5月23日

原告

浜改田漁業協同組合

右代表者理事

溝渕末廣

原告

竹村章

ほか一九名

右二一名訴訟代理人弁護士

藤原周

藤原充子

被告

右代表者法務大臣

中村梅吉

右指定代理人

河村幸登

ほか四名

被告

高知県

右代表者知事

溝渕増巳

右選任代理人弁護士

氏原瑞穂

右指定代理人

山本文雄

ほか一名

被告

南国市

右代表者市長

杉本恒雄

右選任代理人弁護士

細木歳男

右指定代理人

藤田勇

ほか二名

主文

被告らは各自、原告浜改田漁業協同組合に対し金一〇〇万円、その余の原告らに対し各金五〇万円、及び右各金員に対する昭和四七年五月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自

原告浜改田漁業協同組合に対し、金一五五万三五九五円及びその余の原告らに対しそれぞれ金一〇〇万円並びに右各金員に対する昭和四七年五月二日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告らの被告らに対する請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保の提供を条件とする仮執行免脱宣言。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らとその漁業権

(一) 原告浜改田漁業協同組合(以下原告組合という)は、水産業協同組合法に基づき、組合員の経済的、社会的地位の向上を目的として設立された法人で、組合員六九名を有し、昭和三八年九月一日高知県知事から、第三種共同漁業権のうち、いわし地曳網漁業について、漁場を南国市浜改田地先(南国市前浜、浜改田界と同市浜改田、十市界との間)で、最大高潮時海岸線から沖合一七〇〇メートルの区域と指定して免許を受け、右漁場のいわし地曳網漁業の第三種共同漁業権者である。

(二) 原告竹村章、同溝渕柳喜、同岡田益水、同浜口寿幸、同浜口幸雄、同浜口勢亀、同浜口嘉吉、同刈谷亀治、同山本利行、同沢本衛、同宮地利幸、同溝渕末廣、同浜口春義、同溝渕清水、同浜田義弘(以下原告地曳網漁業者という)は、原告組合の定める共同漁業権行使規則により、前記指定区域の漁場において、地曳網漁業を営む権利(行使権)を有する(漁業法八条一項)。

原告地曳網漁業者は、右漁場において、漁場を一番から一一番までに区画(あじろ)し、当日の第一回目の網入れは、各組合員が予め割り当てられたあじろで行ない、翌日は、前日割当のあじろ番号の一番号上のあじろで操業し、いずれの日も第二回目以降の網入れからは、自由に選んだあじろで操業する。

操業に使用する網は四〇〇尋で、その中央は袋(網)となり、網の下端にはセメント製の一二二五ないし一五〇〇グラム(三〇〇ないし四〇〇匆)の錘を五尋毎に付け、網の上端にビニール製のうきを、網の両端にはロープを付ける。そして、その網を舟で沖合に投下し、陸上よりロープを引いて袋(網)で「しらす」を採捕する。

網は海底に着き、ある程度錘が海底に沈んだ状態で引かれる。

(三) 原告竹村章、同溝渕柳喜、同岡田益水、同浜口寿幸、同浜口幸雄、同浜口勢亀、同浜口嘉吉、同刈谷亀治、同山本利行、同沢本衛、同宮地利幸、同野村益弘、同野村耕、同中澤兼芳、同楠瀬正信、同野村尊治(以下原告船曳網漁業者という)は、昭和三八年九月、高知県知事より、大略高知港口防波堤船曳基点と手結崎灯台との海域の、須崎市下甲崎突端と同市上甲崎突端とを結ぶ延長線上以北の区域で、距岸一七〇〇メートル以内の共同漁業権の区域及び漁業禁止区域を除いた範囲を漁場とし(ただし、共同漁業権者の承諾のあるときは、その共同漁業権の区域を含む)、操業期間三月一五日より翌年一月一四日までとした、いわし、しらす機船船曳網漁業の許可を受け、更に、昭和三八年から毎年、訴外手結漁業協同組合、同岸本漁業務同組合、同赤岡漁業協同組合、同吉川漁業協同組合、同久技漁業協同組合、同香西漁業協同組合、同十市漁業協同組合、同高知市漁業協同組合及び原告組合の各共同漁業権の漁場に機船船曳網漁業の操業の承認を受けたものである。

原告船曳網漁業者は、原告組合の共同漁業権を有する漁場をはじめ、右許可を受けた漁場で操業する。

操業は、二ないし五トンの機船を二雙使用し、約八〇尋の網の中央に袋(網)を付け、網の両端を機船で引き、袋(網)で「しらす」を採捕する。

網の下端には鉛製の二〇〇ないし二五〇グラムの錘を、網の上端にはビニール製のうきをそれぞれ付け、網を縦にして機船で引く。錘は、海底の砂に三〇センチメートル以上沈む状態にある。

2  侵害行為

(一) 後川と放水路

南国市浜改田を流れる一級河川後川は、物部川水系に属し、昭和二一年一一月二九日高知県告示四七九号をもつて準用河川に指定され、次いで昭和四二年五月政令七五号(河川法四条)により一級河川に指定され、その範囲は、左岸南国市浜改田字山ノ端一〇三八番地先、右岸同市浜改田字岩坂七四七番地先から物部川合流点まで(延長約4.2キロメートル)である。

後川には新秋田川(上流端左岸南国市物部字新改乙四〇番地先、右岸同市物部字本村一四七四番地先)、錆野川(上流端左岸南国市里改田字錆野一八番一地先、右岸同市里改田字浅手六九四番一地先)の各一級河川とその他の小川、農耕用水路が流入し、その流域は、香長平野の三分の一であり、流域内の殆んどは水田であるが、里改田、前浜、物部、田村、浜改田、十市等の部落が散在する。

後川には、第一放水路(昭和二六年着工、昭和三一年完成)、第二放水路(昭和三一年着工、昭和三七年完成)が設置され、その所在は、第一放水路が南国市浜改田・十市界から東方約三〇〇メートルの地点であり、第二放水路が南国市前浜・浜改田界の西方約五〇メートルの地点である。後川の流水は、各放水路から、原告組合の漁場に直接放出されている。

(二) 廃棄物とその放出

後川全域には、その流域から流入した古ビニール、家庭用及び農業用ゴミ(以下単に廃棄物という)や、人為的に投入された廃棄物が、その河床にヘドロと共に多量に堆積しており、疎水は充分でない。更に、その流水中に多量の廃棄物が混入し、前記第一、第二放水路から、原告組合の漁場に放出され、その廃棄物の量は、昭和四〇年ごろから平常時で一日少なくとも一トン、降雨時には一日少なくとも一〇トンに達し、今日までに数千トンに達した。

原告組合の有する漁場に堆積浮遊する廃棄物の殆んどが、第一、第二放水路から放出されたものであることは、廃棄物が第一、第二放水路の沖合を中心にその東西約二〇〇メートルの海底に最も多量に堆積し、東西に離れるに従つて減少していること、及び掃海の実績(原告組合は、昭和四七年八月に四日間掃海した際、毎日各一トンの廃棄物を回収し、原告組合の漁場の西に漁場を有する訴外十市漁業協同組合では、同月二日と三日で一トン回収し、同月二六日と二七日には回収するものがなく、原告組合の漁場の東に漁場を有する訴外久枝漁業協同組合は同月二日に0.2トン、三日に0.1トン、同月二六日、二八日はない状態であつた)より明白である。

(三) 操業の妨害

前記のように後川第一、第二放水路から漁場に放出された廃棄物は、昭和四〇年ごろから原告らの操業を妨害するに至つたが、昭和四三年ごろ以降、それが一層甚しくなり、多量の古ビニール、家庭用、農業用ゴミが網にかかり、機船で網を引くことができず、スクリューにビニールが巻きついて船の進行が停止するようになつた。このため、原告船曳網漁業者は、年間数回にわたり操業を中止し、網を陸場げしてゴミを取り除き、また、毎日網からゴミを取り除きつつ操業を続けた。また、原告地曳網漁業者も網に多量の廃棄物がかかるため、網を陸揚げするのに多大の労力を必要とした。

さらに、年に数回は漁獲物に多量ゴミが混入し、漁獲物が商品価値を失ない、それを廃棄せざるをえなくなり、また網からゴミを除去するのに多大の時間を奪われ、そのため操業の回数が減少した。

その他、毎年数回、多量のゴミのかかるときには、原告組合員や他の原告組合の組合員全員で労力、機船、網を無償で提供して掃海した。

また、右廃棄物の存在によつて、回遊魚群、定着魚群がいずれも激減し、漁場の価値が著しく低下した。

以上の事由により原告らは後記損害を被つた。

3  被告らの賠償責任

(一) 被告南国市

清掃法(昭和二九年法律第七二号)は、第六四回臨時国会において成立した廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四五年法律第一三七号、以下廃棄物処理法と略称する)によつて全面改正され、後者は、昭和四六年九月二四日から施行された。

市町村は、清掃法により、特別清掃区域内の汚物処分をすべきものと規定され(同法六条)、廃棄物処理法により、当該市町村区域内全般にわたつて廃棄物処理義務を負担することとされている(同法六条)。

(清掃法においては、都道府県知事の指定区域は除外しうる旨の規定があり、後川流域中農耕用田畑の部分は除外地域もあつたが、市町村は、清掃法の規定の有無にかかわらず、後記の法的義務を有する。)

被告南国市は、地方自治法一条の二、二条二項、同三項七号、同四項、同九項別表第二、一一号の各規定により、清掃事務処理義務を負うところ、前記清掃法等により、具体的に行政区域内の汚物の収集・処分義務、廃棄物処理事業の実施にあたり、職員の資質の向上、施設の整備、作業方法の改善等の能率的運営義務及び区域内における廃棄物の処理義務を有し、もつて、住民の生活環境を清潔にし、生活環境の保全、公衆衛生の向上を図る義務を有する。しかるに、被告南国市は後川流域内における家庭から排出されたゴミ、放置された農業用ビニール等の廃棄物を収集することなく放置し、もつて、前述の法的義務を故意または過失により懈怠した不作為による違法行為に基づき、廃棄物を雨水等により後川に流入させ、後川の第一放水路よりは昭和三一年から、第二放水路よりは昭和三七年から今日まで数千トンに上る廃棄物を漁場に放出させ、漁場に堆積浮遊させて、原告らに損害を与えたものである。

よつて、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償責任がある。

(二) 被告高知県

(1) 国家賠償法一条一項による責任

被告高知県は、地方自治法一条の二、二条二項、同三項七号、同六項三号、清掃法一条、二条二項、廃棄物処理法一条、四条二項、一〇条三項、憲法二五条二項の各規定に基づく法的義務により、具体的に行政区域内の市町村に対し、その廃棄物処理事業の能率的運営責務を十分果すに必要な技術的援助義務を有する。

しかるに、被告高知県は、後川流域内における家庭から排出されたゴミ、放置された農業用ビニール等の収集について、被告南国市に対し、何ら技術的援助(指導、監督、勧告、管理等)をなさず、前述の法的義務を故意または過失により懈怠した不作為による違法行為に基づき、前述のとおり被告南国市をして廃棄物を放置させ、原告らに損害を与えた。

よつて、国家賠償法一条一項に基づき損害賠償責任がある。

(2) 国家賠償法三条一項(二条一項)による責任

後川第一放水路と、同第二放水路を結ぶ河川は、一級河川物部川水系後川であり、被告国の所有に属する。被告国は、右後川を建設大臣をして管理させ、同大臣は政令により、右管理を訴外高知県知事に委任している。

河川は、家庭用ゴミ、農業用ビニール等の廃棄物の流入のないよう保全し、流入した場合は速かに除去し、河床に泥土、汚物の堆積、流水の逆流のないように設置、維持、管理し、いやしくも河口から海域に廃棄物を流出させないようにし、もつて漁業の操業に妨害のないようにしなければならない。

ところが、高知県知事は、右後川(特に第一放水路から物部川合流点まで)に、南国市後免町以南の家庭用、農業用ビニール、プラスチックその他の廃棄物が、長年月にわたり、多量に流れ、流下する事実を放置し、更に、右廃棄物の一部が泥土と共に河床に堆積し、流れの疎通を阻害しているのにしゆんせつ等の処置をとらず、廃棄物を第一、第二放水路を通して前述の如く原告組合の漁場に放出させ、原告らに損害を与えた。

右損害は高知県知事の前述の後川維持・管理に瑕疵があつたため発生したものである。

ところで、一級河川物部川水系後川の管理は、建設大臣が行なうが右後川は河川法九条二項による指定区間に該当し、右指定区間内の管理費用は、すべて被告高知県の負担である(河川法九条、一、二項、六〇条二項、河川法九条二項の規定により一級河川の指定区間を指定)。

よつて、被告高知県は費用負担者として国家賠償法三条一項に基づき損害賠償責任がある。

(三) 被告国

(1) 国家賠償法一条一項による責任

被告国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上増進に努めるべき義務があり、廃棄物の処理につき清掃法一条、二条三項、廃棄物処理法一条、四条三項、憲法二五条二項の各規定により要求される法的義務に基づき、県、市に対し、県、市の負担する前述の法的義務が十分果されるよう必要な技術的、財政的援助をする義務を有する。

しかるに、被告国は、被告高知県及び被告南国市に対する廃棄物の処理についての前述の法的義務を、故意または過失により懈怠した不作為による違法行為により、後川流域における家庭から排出されたゴミ、放置された農業用ビニール等の収集並びにその技術的援助等について、何ら指導、監督、勧告、管理、財政的援助をなさず、前述のとおり、被告南国市及び被告高知県をして廃棄物を放置させ、原告らに損害を与えた。

よつて、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償責任がある。

(2) 国家賠償法二条一項による責任

後川は前述のとおり被告国の所有に属し、被告国は建設大臣をしてこれを管理させ、同大臣は政令により右管理を高知県知事に委任しているところ、河川管理者である高知県知事の前記のような管理の瑕疵により原告らに対し損害を与えたものであるから、国家賠償法二条一項に基づき損害賠償責任がある。

4  原告らの損害

(一) 原告組合

(1) 原告組合の有する前記第三種共同漁業権は、いわし、その他の幼魚(いわゆるしらす)を採捕することを内容とし、その目的たる利益は、経済的利益であるから、一種の財産権であり右第三種共同漁業権の侵害に対しては、損害賠償請求権が発生する。

(2) 原告組合は原告組合員が採捕した「しらす」をすべて販売し、その代金から五パーセントの手数料を取得する。

被告らの前述の行為により、原告組合員らは操業を妨害され、昭和四〇年ごろから毎年二〇パーセント以上漁獲量が減少し、そのため原告組合の取得する手数料も二〇パーセント以上減少した。

(3) 原告組合員の「しらす」の漁獲高は次のとおりである。

自昭和四三年三月至同四四年一月

金三四一一万八七七五円

自同 四四年三月至同四五年一月

金二八九三万八九五九円

自同 四五年三月至同四六年一月

金四五一八万七三七〇円

自同 四六年三月至同四七年一月

金四七一一万四四一五円

計金一億五五三五万九五一九円

(4) 右漁獲高は、二〇パーセント以上減少した額であり、第一、第二放水路からの廃棄物の放出により、昭和四三年三月から昭和四七年一月までの間に、少なくとも手数料一五五万三五九五円の減少となり、同額の損害を蒙つた。

(二) 原告組合員

(1) 原告船曳網漁業者

(イ) 前記許可及び承認を受けた漁場の範囲に不法な侵害あるときは、各原告船曳網漁業者に損害賠償請求権が発生する。

(ロ) 原告船曳網漁業者は、前記2項(三)記載の如く廃棄物の存在により、操業を妨害され、漁獲量は昭和四〇年ごろからゴミのなかつたときに比べ、毎年少なくとも二〇パーセント以上減少し、相当の財産的損害を蒙り、そのころから操業中止、網からのゴミの除去、無償で労力等を提供したこと等により、多大の精神的、肉体的損害を蒙つた。

(2) 原告地曳網漁業者

(イ) 原告地曳網漁業者が行使する権利(行使権)は、古来から漁民に対して慣習として認められてきた本来の漁業権であり、その侵害に対して損害賠償請求権が発生する。

(ロ) 原告地曳網漁業者は、前記2項(三)記載の如く、廃棄物の存在により操業を妨害され、自主的に掃海に協力して操業できなかつた等の事情により、漁獲量はゴミの混入しなかつたときに比べ、昭和四〇年ごろから毎年二〇パーセント以上の減少を生じた。

そのうえ、右事情で、多大の精神的、肉体的打撃を蒙つた。

(3) 漁業は、その日の天候、波浪、魚群の位置、操業の方法により、漁獲量に差があるので、現実に蒙つた財産的損害を正確に計算することは著しく困難であるから、逸失利益をも右原告組合員の精神的損害に含めて請求することとし、その損害は、各原告組合員について、各金一五〇万円が相当であるが、うち金一〇〇万円を請求する。

(三) よつて被告らに対し、原告組合は金一五五万三五九五円、その余の原告らはそれぞれ金一〇〇万円及び各金員に対する不法行為後である昭和四七年五月二日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項(原告らとその漁業権)の事実中、(一)(原告組合とその漁業権)及び(三)のうち原告船曳網漁業者とその許可の事実は認め、その余は不知。

2  請求原因2項(一)(侵害行為、後川と放水路)の事実は認める。

同項(二)(侵害行為、廃棄物とその放出)の事実中、後川にある程度廃棄物が流入し、その第一、第二放水路からある程度廃棄物が放出されたことは認めるが、その程度、量を争う。原告ら主張の地先海中に堆積ないし浮遊する廃棄物は、むしろ右海域の東に流入する物部川本流から流出し、海流に乗つて右海域に至つたものが非常に多く、また同海域の西、浦戸湾方面からも風に吹かれて潮流に乗つて同海域に打ち寄せられ、あるいは沈下するものが多大である。

同項(三)(侵害行為、操業の妨害)は否認する。

3  請求原因3項(被告らの賠償責任)の事実中、清掃法がその主張のように全面改正され、廃棄物処理法が施行されたこと及び法律の各規定のあること及び後川が一級河川で被告国の所有に属し、被告国は建設大臣をしてこれを管理させ、同大臣は右管理を訴外高知県知事に委任していること、その管理費用をすべて被告高知県において負担していることは認めるが、その余は争う。

4  請求原因4項(原告らの損害)中、原告組合の有する第三種共同漁業権及び原告地曳網漁業者の権利が侵害された場合、損害賠償請求権が発生することは認めるが、その余は否認する。

三  被告らの主張

1  不法行為の成否について

(一) (被告南国市の主張)

(1) 被告南国市の廃棄物処理義務について

右義務については清掃法施行時代と、清掃法が廃止され、廃棄物処理法が施行されるに至つた昭和四六年九月二四日以降と区別して考察しなければならない。市町村の清掃事業は、本来市町村の住民の日常生活から排出されるし尿や家庭ゴミなどの一般廃棄物を、生活環境の保全上支障のないように処理するための公共的サービスであるから、多量の産業廃棄物を処理する能力はない。このことは清掃法時代も廃棄物処理法施行後も同様であるが、廃棄物処理法は特に産業廃棄物について事業者責任を規定している(三条)。清掃法時代にも同法七条により市町村長は「業務上その他の事由により多量の汚物を生ずる土地または建物の占有者に対し、衛生的な方法で当該汚物を市町村長の指定する場所に運搬し、また処分すべきことを命ずることができる。」ことになつていた。

すなわち市町村住民に対し一般廃棄物についての清掃事業を行なう行政義務を負うが、産業棄業物の処理については事業者の責任とされている。

しかして原告主張の農業用ビニールは廃棄物処理法二条三項に定める廃プラスチック類に属し、園芸農業経営者が事業者として処理する責任のあるものである。

前述の如く市町村のなす清掃事業の本質は住民に対するサービス的行政行為というべく、清掃法二条一項及び廃棄物処理法四条一項の市町村の責務は覊束裁量行為としては定められてはいない。すなわちどの程度の汚物の処理ができていなけばならないとの規定はなく、どの程度の不作為が違法となるかどうか裁量の限界の定めがないのであつて、市町村の自由裁量的責務として規定されているというべきである。ただし、勿論裁量の限界が全くないわけではなく、清掃法一条、廃棄物処理法一条のそれぞれの目的からいつて、汚物ないし一般廃棄物の処理等の懈怠が社会通念上余りにも重大且つ明白な場合は、裁量の範囲を逸脱した違法なものとなるといえるであろう。しかし、市町村の職員がそれ相当の努力をしている限り自由裁量の範囲内の行為として、国家賠償法一条一項の不法行為は成立しないというべきである。

また、後川流域、特に第一、第二放水路の各吸水口地帯は地盤が極めて低いため、ある程度の雨で附近の田畑がよく冠水し、農作物や敷藁及びビニールが自然に流れ出し、農業者自らも被害を受けているわけで、何も故意に古ビニール等を後川に投入するわけではない。

要するに、放水路から浜改田地先海域に流入したものも後川の地盤の低い地理的条件のため、降雨時に自然に流出したもので、被告南国市の清掃行政の懈怠によるものとはいえない。

(2) 被告南国市に清掃上の懈怠はない。

被告南国市においては本来の清掃業務に従う所管課があり、また南国市海岸線の漁民からその地先海中に廃棄物があり、漁業に差支えがあるとの陳情がなされるに至るや、商工水産課において海中障害物の除去に努力をなし、またその障害物が農業用ビニールの投棄ないし河川からの流出にあるとの声を聞き農林園芸課が活動して農業用ビニールの回収につとめた。

以下これを詳論する。

陸上における一般廃棄物並びに放棄された産業廃棄物の清掃業務については次のとおりである。

被告南国市における一般清掃事務は昭和四四年三月三一日までは厚生課が所管をなし、同年四月一日から総務課(交通公害係)、昭和四五年四月一日からは市町公室(交通公害係)、昭和四六年四月一日からは公害環境課がこれを所管した。しかして昭和四五年九月までは南国市中心部(後免町及びその周辺)は住民をしてゴミ類を一定の場所に集めさせ、被告南国市において収集に週二回廻り、その他の地区ではあるいは週一回廻るかあるいは住民の協力を得て自家処理をしてもらう方法をとつていた。そして収集したゴミの焼却炉は四トン炉一基であつたが昭和四五年九月に簡易焼却四トン炉一基を新設した。更に焼却炉の新設をしようとしたが設置場所について地域住民の同意を得られなかつた。その後、昭和四八年一月からはゴミの埋立地を求め得て、生処理(埋立処理)が可能となり全地域のゴミを週二回収集することが可能となつた。右の如くゴミ収集の業務に従い来りその業務そのものにつき住民の批難もなく、他の市町村に比し格別ゴミ収集事務の懈怠があるとは思われなかつた。

ところが昭和四五年八月二一日の十号台風以後、浜改田を含めた南国市海岸線地先海中に農業用古ビニールが浮遊しあるいは沈んでいてその地先漁民の漁業にある程度支障があるとの陳情があつた。そこで被告南国市としては古ビニールがその他廃棄物の不法投棄の防止、回収に次のような努力をした。

昭和四六年一月から河川清掃人二名を雇用し、二トンダンプ一台を配置し、常時南国市内各河川の清掃とビニール類の収集並びに処理に従事せしめた。

同年六月ごろより各河川に河川監視人計五六名を市長において委嘱し河川に対する不法投棄を未然に防ぐ措置をとつた。

後述の農林園芸課の関与する南国地区園芸用古ビニール等処理対策推進協議会の活動とは別に、市内における農業用古ビニールを一定の場所に集めて、これを吾川郡春野村の日本樹脂化学株式会社に運搬処理することの指導、宣伝を、あるいは市内農業協同組合、あるいは営農指導員、更には高知県園芸組合連合会と会合協議をして推進した。

海岸線に投棄された古ビニール等廃棄物の処理について職員自らブルトーザーを用いて度々清掃に従い、あるいは昭和四五年一一月には市費一八〇万円を投じて業者を雇い、ブルトーザー、ユンボ、タイヤショベルを用いて清掃に従つた。

昭和四六年四月一六日より四日間職員三五名で各河川の清掃に従つた。

その他廃棄物の不法投棄の防止、古ビニールの回収の広報宣伝には、昭和四五年一〇月ごろより広報車二台を配置してしばしば繰り返し来つた。

古ビニールを主とする海中障害物の除去については商工水産課がこれに従つた。

被告南国市海岸線地先漁業従事者より、古ビニールを主とする海中障害物があつて操業に支障があるといい出したのは昭和四四年ごろからのことであつて、特に声のあがつたのは昭和四五年八月二一日の台風十号以降である。その傾向は浜改田地先のみでなく高知県全域におけるすう勢であつた。

被告南国市では早速昭和四四年度及び昭和四五年度に市費各六〇万円を支出して、原告組合、及び十市、久枝、香西の三漁協計四漁協に交付し、漁場障害物除去作業の人夫賃金として使用してもらつた。

昭和四六年度においては高知県全域についての高知県漁場維持対策協議会が組織され、県費一二〇〇万円、市町村負担分六〇〇万円(被告南国市負担分五七万九〇八六円)、高知県園芸組合連合会負担分六〇〇万円、県下漁業協同組合負担分六〇〇万円、合計三〇〇〇万円の予算をもつて漁場障害物除去のための掃海事業をなすこととなり、実地の作業実施は各漁業協同組合ごとに行なつてもらい、これに右協議会から掃海事業費を交付するという方法をとり、南国市においては十市、浜改田(原告組合)、久枝の三漁協に合計二七三万七〇〇〇円の配分があり、原告組合に対しては一三一万七五〇〇円が配分され、掃海事業が行なわれた。

なお同年度において、右とは別に被告南国市は原告組合に対し、八万三一一四円を支出して海岸地帯廃棄物処理費(燃料費三一一四円、人件費八万円)として使用させた。

昭和四七年度においては掃海事業を前記対策協議会の事業とせず、被告高知県が主体となつて漁場維持対策事業を行ない、これが実施を市町村に委託し、市町村は作業実施を各漁業協同組合に再委託して費用を支払う方法をとつた。そして被告南国市において被告高知県より交付された金額は二九〇万六四〇〇円であり、市費七二万六六〇〇円を加え、合計三六三万三〇〇〇円を前記三漁協に事業委託費として交付し、原告組合に対する配分は一八一万七〇〇〇円(網製作費八九万二〇〇〇円、掃海費九二万五〇〇〇円)であつた。

以上のとおり被告南国市としては右のように市費を投じて海岸線地先漁業者の要望に答え掃海等に努力をした。

古ビニール回収についての園芸農家に対する対策には被告南国市においては農林園芸課が従つた。

高知県において、昭和四四年九月高知県園芸用古ビニール等処理対策推進協議会が組織され、同月下旬その下部組織として南国市においては、「南国地区園芸用古ビニール等処理対策推進協議会」を結成し(構成員は被告南国市、南国地区農協園芸部、園芸出荷団体、農協営農指導員、高知県園芸農業協同組合連合会南国市支所、そして事務所を被告南国市農林園芸課においた)、その組織を通じて南国市農林園芸課が活動し園芸農家の古ビニール回収に努力をした。

その古ビニール回収処理の方法としては各園芸団体の古ビニール集荷場所を定めて、農家をして古ビニールを集めさせ、高知県吾川郡春野村所在のビニール再生業者である日本樹脂化学株式会社に運送し、同会社においてカツト業者が一定寸法にカツトし、右会社において再生処理をするというのであるが、その運送費用並びにカツト料につき、右推進協議会と被告南国市並びに農家が費用負担することとした。

その支出費用並びに処理量は南国市においては次のとおりである。

昭和四四年度においては前記高知県園芸用古ビニール等処理対策推進協議会から七万六一〇〇円を支出し二万五三六六キログラムを回収し、昭和四五年度においては右協議会から八万三三四五円を支出して二二万一一〇〇キログラムを回収し、昭和四六年度においては右協議会が八四万九四四七円を、被告南国市が八〇万円を支出し、農家負担金一〇八万九八九四円を加え計二七三万九、三四一円を支出し、四〇万七六五〇キログラムを回収し、昭和四七年度においては右協議会が一〇五万円を、被告南国市が三九三万九九九九円を支出し、農家負担金一一三万円を加え、計六一一万九九九九円を支出し、一〇三万八六六〇キログラムを回収した。

その他農林園芸課において広報自動車及び有線放送を用い、園芸農家に対し古ビニールを一定の場所に集積すべきこと、道路、河川、海岸線に不法投棄しないことを盛んに呼びかけた。

以上のとおり被告南国市農林園芸課もできるだけの努力をしたわけである。

よつて、被告南国市は不法行為責任を負ういわれはない。

(二) (被告高知県の主張)

(1) 国家賠償法一条一項の責任について

清掃法二条二項、廃棄物処理法四条二項前段には「都道府県は、市町村に対し、前項の責務が十分に果されるように必要な技術的援助を与えることに努めなければならない」旨の規定が存在する。

しかしながら、清掃法のもとにおける汚物及び特殊な汚物の処理はいずれも市町村の固有事務として行なわれてきたものであり(同法六条、八条)都道府県は政令に定める基準(清掃法施行令一条)に従い、その知事が国の機関委任事務として、市については特別清掃区域の除外区域を指定する事務と町村についてはその区域の全部または一部を特別清掃区域と指定する事務を行なう(右同法四条、地方自治法一四八条二項別表第三の二〇号の三)こととされていたにすぎない。

また、現行廃棄物処理法のもとにおける廃棄物の処理は、一般廃棄物については清掃法当時と同様、市町村がその固有事務としてこれを行なうこととされており(右同法六条)産業廃棄物については、現行法においてはじめて事業者の排出者責任の原則が樹立され、次いで処理効率の面から市町村更に都道府県が処理することができるものとされた。しかし、この都道府県のなす産業廃棄物の処理は、その対象をあくまでも処理効率を考慮して事業者の処理の補完として広域的に処理することが適当と認められる産業廃棄物に限定されており、かつ、その処理を法律上期待するという程度に止まり法律上義務的に処理を強制される事務ではないとされているところである(右同法一〇条殊にその一項と三項を対比参照)。

それゆえ被告高知県は、廃棄物処理法のもとにおいても自ら常に廃棄物を処理すべき責任を負うものではないというべきである。

しかも清掃法二条二項、廃棄物処理法四条二項前段がいずれも「……努めなければならない」という規定の仕方をしていることからみても、右各条項は廃棄物の処理についての都道府県の一般的な行政施策上の態度を宣言したにすぎないものと解すべきものといわざるをえないところである(清掃法五条三項、廃棄物処理法五条四項も同様に解すべきものである)。

さればこれまで検討してきた清掃法、廃棄物処理法のいずれにも都道府県が汚物、廃棄物の処理について責任を負うべき法律的根拠は全く存在しないのであるから、原告ら主張のような被告高知県の被告南国市に対する法律上の義務として技術的援助義務なるものも存在するはずがなく、これを前提とする原告らの主張は既にこの点において失当である。

(2) 国家賠償法三条一項(二条一項)の責任について

高知県知事は、国の機関委任事務として後川の河川管理を委ねられているものではあるが、それは常に唯一の法令ともいうべき河川法に基づいて行なわれるものであつて、しかも、この河川法の目的とするところはその一条に述べられているように、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進すべく洪水、高潮等による災害の防止と河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持されることを目的として河川を管理することにある。

したがつて、これを機能的な面から見た場合、各河川における沿岸流域の開発が進捗され、しかも災害の発生を防止するため河川水系を一貫した全体計画に基づいて治水事業を実施する必要のあること(重点は、この治水面に置かれている。)と、一方では産業の発展、人口の増加、生活水準の向上等に伴つて各種の用水の需要の増加を考慮し水の合理的な利用を確保する必要のあることを前提とする秩序維持行政―警察行政―的作用的機能を有するものである。

そしてかかる前提のもとに河川法に基づいて行なわれる河川管理の内容とされる行為は、河川に対する一定の行為の禁止、制限とその許可、維持、監督処分(下命)費用負担等の各行為であり、しかも、本件との関連において問題となるのは、河川法二九条一項、同法施行令一六条の四と同法七五条の規定にすぎない。

加うるに、これらの規定は、いうまでもなく河川管理の秩序を維持するうえで容認することのできない「河川区域の土地に……その他の汚物若しくは廃物を捨てる」という違反状態を防止、除去することを目的とするものであるから、消極目的の原則、公共性の原則の制約を免れず(この点が廃棄物の収集、処理に住民の協力をえられ難い理由ともなつている)、かつ、いわゆる警察責任の原則に基づいて、右のような違反状態を生じさせたことについての責任者を確定し、このような責任者に対してだけしか右規定の発動もなしえない(この点がこの規定の完全なる適用を不可能とする最大の理由でもある。)のみならず、かかる規定の適用は住民の権利、自由を制限する趣旨のものであるから、法令上広範な裁量権が与えられているようにみえるときでも、その住民の権利利益を擁護するためその裁量権は厳重に覊束されるべきであつて、軽々しく発動されてはならないものである。

したがつて、河川管理の面における汚物、廃棄物に対する行為が右のようなものである以上、河川管理者たる高知県知事に原告ら主張のような義務を課すること自体河川法の目的を逸脱するものというべきであり、不可能を強いられるに等しいといわざるをえないところである。

(3) 被告高知県は、後川を含め、高知県の河川へのビニール類等の廃棄物に対して、従来から次のような行政指導と監督を加えてきており、その指導監督に懈怠はない。

河川法施行令の改正政令(昭和四五年政令第二三五号)一六条の四は現行河川法二九条一項に基づき、その四号において「河川区域内の土地に……その他の汚物若しくは廃物を捨てること」を禁ずるとともに(ただし、その例外が認められる。)その違反者に対しては同令五九条二号によつて三月以下の懲役または三万円以下の罰金に処することとしている。そして、被告高知県は、河川法七七条に基づく河川監理員を各河川に常置して違反行為の是正に当らせるとともに、昭和四六年三月一八日、四五河第四九三号をもつて県下各土木事務所長、市町村長、農協連合会長、園芸連合会長、園芸組合長に対し「河川、海岸、道路及び港湾へのじん芥等の投棄防止の対策(協力)について」同年八月二一日には四六河第一七二号をもつて、右同旨の各通知及び依頼を行ない、廃棄物の投棄、放置等の防止については万全を期してきたものである。

高知県における施設園芸は、戦前から暖地の輸送園芸として発展してきた。特に昭和二七年にビニールが農業用として開発され、従来の油紙による温床からビニールハウスとなり、栽培種目並びに栽培者、その面積の増加と規模拡大などによつて生産は著しく伸び、本県の基幹産業の一ともいえる程度の成長をみるに至つた。

このような施設園芸の急速な発展により園芸用ビニール等の消費は著しく増大したが、これに伴い古ビニールの放置による沿岸漁業関係等への障害が生じはじめた。

昭和四四年度までは被告高知県が園芸振興の面から行政指導を行ない、主として県内における施設野菜の生産、出荷を総括している高知県園芸農業協同組合連合会が、東洋電化、東洋ケミカル、日本樹脂化学等個々の民間回収業者に依頼して古ビニールの回収に努めてきた。

年度

事業費(円)

うち県費補助(円)

古ビニール等処理実績

回収処理 (トン)

埋没処理 (トン)

計 (トン)

四四年

二、九二〇、〇〇〇

四八〇、〇〇〇

一、五一六

一、五一六

四五年

七、八六〇、〇〇〇

一、二五〇、〇〇〇

一、四二四

一、一四五

二、五六九

四六年

一五、五六〇、〇〇〇

三、八九〇、〇〇〇

二、一六二・七

一、一五〇

三、三一二・七

しかし、昭和四四年度に至つて、作付面積、使用ビニールの増大の現象が顕著となり、これら古ビニール等の回収を一民間団体のみに委ねておくことの処理効率を考慮する必要が生じたため、園芸用古ビニール等の完全な回収の促進を目的として、県段階に被告高知県も加入し指導に当ることを前提として高知県園芸用古ビニール等処理対策推進協議会を、市町村段階に地区協議会を設置し、これら団体により古ビニールの処理対策を進めてきた。

そして、昭和四四年度から四六年度までの間において県費補助により高知県園芸用古ビニール等処理対策推進協議会の処理対策実施状況は次のとおりである。

昭和四七年度において、当時、田畑、畦畔、水路等に放置されていた古ビニールの一掃処理を県下一斉に行なうこととし、六月五日〜一五日の期間内に関係市町村において、関係団体の協力を得て、一掃処理対策事業を実施した。

なお、これに先立つて、南国市において、四月二四日から二八日にかけ、各農協ごとに古ビニールの一掃対策を実施したうえ、更に同年六月下旬以降に生じる古ビニール等の処理は、七月〜一〇月の期間内において、高知県園芸用古ビニール等処理対策推進協議会及び地区協議会の処理対策事業を実施し、総事業費二九〇三万九四七五円(うち県費補助六七一万六〇〇〇)円を投じ、合計5501.5トンの回収を行なつている。

また、水産振興の面からは、従来園芸地帯の一部市町村(被告南国市を含む)では、昭和四四年ごろから漁民に対し、その地先漁場の掃海について、経費の一部助成により問題解決を図つてきたのであるが、昭和四五年の十号台風により、従来漁場海底に沈澱堆積していたビニール等が攪乱されたこともあつて、漁業操業に支障をきたし始め、県下的な問題に発展してきた。被告高知県は、これに対処すべく次の事業を行なつた。

昭和四六年度には漁場維持対策事業を創設し、関係市町村、園芸連の協力を得て高知県漁場維持対策協議会を結成して、事業費二四〇〇万円(うち、県費補助一二〇〇万円、市町村、園芸連負担各六〇〇万円)をもつて土佐湾一帯の掃海作業を実施することとし、原告組合も、本事業による掃海を昭和四六年の九月と一〇月及び四七年二月に実施している。

昭和四七年度においても被告高知県は、特に被告南国市の行政区域の海域につき漁業の障害となる農業用ビニール等を主とした除去のため、被告南国市に対し、二九〇万六四〇〇円の事業費をもつて掃海事業を委託し(原告組合においては、同年八月二、三、一二、二六日の四日間に、一八一万七〇〇〇円に及ぶ掃海を行なつている)、更に、昭和四七年八月一二日、昭和四八年一月一〇日にも国庫補助事業として(補助半額)、事業費一三二三万九〇〇〇円でもつて掃海事業を実施し、原告組合もこれに参加している。

なお、被告高知県は、このほか次のとおり原告らと被告らが締結した昭和四七年五月六日付覚書一条に基づいて、河床整備工事を実施して、後川河床に堆積した古ビニール、ヘドロ等の除去を実施してきているものである。

(イ) 工事名 一級河川物部川一次支川後川河床整備工事

工事場所 南国市浜改田

工期 昭和四七年五月一〇日から同月三一日まで

請負金額 三四六万八〇〇〇円

堆積物を除去した面積

二万一四一二平方メートル

(ロ) 工事名 右同

工事場所 右同

工期 昭和四八年三月一七日から同月三一日まで

請負金額 二五八万八〇〇〇円

除去した堆積物の量

1687.5立方メートル

(ハ) 工事名 右同

工事場所 南国市前浜

工期 昭和四八年三月一八日から同月三一日まで

請負金額 三一万五〇〇〇円

除去した堆積物の量

284.2立方メートル

最後に廃棄物行政についての被告高知県の執行状況を付言する。

清掃法施行当時においては、汚物の処理等についての施策は衛生課において処理してきたが、昭和三〇年四月一日同課に環境衛生係が採用され同係において処理されることとなり、昭和三八年四月一日からは組織拡充の結果、厚生労働部環境衛生係として処理に当り、昭和四六年四月一日廃棄物処理法の公布に伴う厚生労働部環境保全局が発足し、同局環境整備課施設係にその事務が引継がれるまでは、環境衛生係において清掃法については、その四条の事務を行なつてきた。

なお、南国市浜改田の後川流域のほとんどの部分は、右同法の特別清掃区域に入つている。

また、各保健所には、清掃法、廃棄物処理法に基づく環境衛生指導員を配置し事務処理に充てている。

昭和四六年度以降における実施事業(ゴミ関係)の概要は、

(イ) 五月二四日付文書指示

廃棄物処理体制の再点険等について ①住民意識の高揚 ②収集体制の再確認 ③粗大ごみ処理施設の整備 ④埋立処分地の確保

(ロ) 六月三日付文書依頼

各保健所に指示し、ごみ処理施設の実態調査実施指導

(ハ) 六月二一日付文書通知

一般廃棄物処理施設技術管理者資格認定講習会受講要請

(ニ) 七月二一日付文書照会

ごみの棄却地等の確保計画について

(ホ) 一〇月五日付文書通知

廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について

その内容説明及び施行に当つて市町村の特に留意しなければならない事項の指示

(ヘ) 一一月四日付文書通知

法等説明会の実施(市町村担当主管課長招集)

一一月一六日県庁正庁ホールにおいて総合説明会

昭和四七年二月から三月の間においてブロック別説明指示の会を更に実施した(七か所)。

(ト) 一一月一三日文書通知

廃棄物処理法の施行についての各通知

(チ) 昭和四七年一月二一日付文書送付

法に関する質疑応答集(国からの通知)を市町村へ送付周知を計る。

(リ) 処理計画策定のための産業廃棄物の実態調査実施(京大へ委託)

(ヌ) 清掃施設整備事業、一般廃棄物処理施設整備事業の各補助金要綱を定め、国庫補助基本額の一〇分の一を単独補助することとしている。

以上の次第で、被告高知県の被告南国市に対する技術的援助に懈怠があるなどとは到底言いえないことである。

よつて、被告高知県は不法行為責任を負ういわれはない。

(三) (被告国の主張)

(1) 廃棄物の処理についての被告国の責務について

昭和四六年九月二四日廃棄物処理法が施行されるに伴い、清掃法は廃止されたが、廃棄物の処理についての被告国の責務は両法において明らかに同一であるから、以下廃棄物処理法における被告国の責務を論ずることとする。

同法四条三項はいわゆる宣言的規定にすぎない。

すなわち、廃棄物は一般廃棄物(同法二条二項)と産業廃棄物(同法二条三項)に分類されるが、これらの廃棄物の処理(収集・運搬・処分)は、当該地方公共の福祉を増進するものであるから(地方自治法二条三項七号参照)いわゆる地方公共団体の固有事務として、前者については市町村が(廃棄物処理法六条)、後者については事業者、市町村、都道府県が(同法一〇条)それぞれ実施しなければならないのであつて、被告国は、国庫補助等の規定はあるものの(同法二二条、二三条)、自ら廃棄物を処理する責任を負うものではない。したがつて、同法四条三項は、「……努めなければならない。」との規定の仕方からも明らかなように、廃棄物の処理についての被告国の一般的な政策態度を宣言したものにすぎないと解すべきであり、それを具体化した別個の規定が存在しない限り、地方公共団体の実施する廃棄物の処理について被告国が責任を負う根拠はないものといわなければならない。このことは、市町村、都も同様であると思われる。

そうすると、原告らが同条三項を理由にして、その「技術的及び財政的援助」の懈怠を主張するのは、主張自体失当であるといわなければならない。

(2) また国の営造物の管理に瑕疵があつた場合、国は国家賠償法二条一項による責任を負担するが、同項にいう「営造物の管理の瑕疵」の意義は、一般に「営造物の維持・修繕・保管行為の不完全により営造物が通常有すべき安全性を欠くことである。」と解されており(最判昭和四五年八月二〇日、訴訟月報一六巻一一号一二頁、東京地判昭和四三年一〇月二八日、訟務月報一五巻二号二四頁)、管理行為が不完全であること(故意・過失は要件とされない。右最判参照。)、及び、これによつて営造物自体に瑕疵が生じてくることの二つの要件を含んだものと解さなければならない。

したがつて、これを本件に適用すると、後川に「管理の瑕疵」があるというためには、後川に対する高知県知事の管理に不完全な点があり、そのため後川が通常有すべき安全性を欠如するに至つたことが必要とされるといわなければならない。

ところで、およそ河川管理の目的は、河川について洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され及び流水の正常な機能が維持されるようにこれを総合的に管理することにより国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持しかつ公共の福祉を増進することにあるから(河川法一条)、河川管理者は当該河川について河川工事をし(同法一六条以下)、また監督処分をする(同法七五条、なお、廃棄物の投棄行為は同法二九条一項、同法施行令一六条の四・二号により禁止される。)等の権限を有するものの、これらはすべて右の管理の目的が達成されるように行なわれねばならず(同法二条一項)、かつ、この観点から行なえば足りるのである(福岡地判昭和四八年一月三〇日、判例時報七〇六号五〇頁)。

さらに、河川についての「通常有すべき安全性」ということは、前項に述べた河川管理の目的との関連からも明らかなように、流水の正常な機能を維持して、洪水・高潮等の災害を防止できるということなのであつて、それは、流水量、当該地域の地形・気象条件等により具体的に決定されねばならないが、農業用ビニール等が流入するのを放置した旨の原告らの主張とは直接には関係しない概念であるといわなければならない。

(3) 被告国に「技術的及び財政的援助」の懈怠はない。

(イ) 財政的援助の内容

廃棄物処理法二二条一号は「一般廃棄物処理施設の設置に要する費用」についての国庫の補助を規定し、これを受けた同法施行令(昭和四六年政令第三〇〇号)九条二号は、国は「ゴミ処理施設の設置に要する費用の額のうち、厚生大臣が定める基準に基づいて算定した額の四分の一以内の額」について市町村に補助を与える旨規定しているが「清掃法一八条一号、同法施行令六条もほぼ同旨である。)、被告国は、これらの規定に基づいて、被告高知県及び被告南国市に対し、次のとおり財政的援助を行なつた。

被告高知県に対して実施した財政的援助の内容

年度

廃棄物処理施設整備費

(指導監督事務費)国庫補助

三八

九万四〇〇〇円

三九

三八万七〇六五

四〇

三八万八〇〇〇

四一

二六万五〇〇〇

四二

五五万〇〇〇〇

四三

五三万九〇〇〇

四四

四〇万〇〇〇〇

四五

六〇万〇〇〇〇

四六

八〇万〇〇〇〇

四七

一二〇万〇〇〇〇

四八

一四〇万〇〇〇〇

(注)

1 昭和四八年度は内示額である。

2 昭和四五年度までの補助金の名称は、

清掃施設整備費(指導監督事務費)国庫補助であるつた。

被告南国市に対して実施した財政的援助の内容

年度

廃棄物処理施設

整備費国庫補助

四七

二四〇〇万〇〇〇〇円

四八

二四〇〇万〇〇〇〇円

また、廃棄物処理法二二条二号は、国は市町村に対し「災害その他の事由により特に必要となつた廃棄物の処理を行なうために要する費用の一部を補助することができる旨を規定し、これを受けて同法施行令九条三号は、右の費用の「二分の一以内の額」について国の補助を行なう旨を規定しているが、これらの規定に基づいて、被告国は、被告南国市に対して、災害清掃事業費国庫補助金(昭和四六年二月一九日厚生省環第一〇六号厚生事務次官通知参照)として昭和四五年度三三万二〇〇〇円、災害廃棄物処理事業費国庫補助金(昭和四八年三月二日厚生省環第一二八号厚生事務次官通知参照)として四四万六〇〇〇円をそれぞれ交付している。

(ロ) 技術的援助の内容

被告国は、廃棄物が適正に処理されるのを期するために、廃棄物処理法の定めに基づき詳細に「一般廃棄物の収集・運搬・処分の基準」(同法六条三項、同法施行令三条、なお、清掃法六条一項、同法施行令二条一号参照。)、「産業廃棄物の収集・運搬・処分の基準」(廃棄物処理法一二条二項、同法施行令六条)、「一般廃棄物処理施設の維持管理基準」(同法八条二項、同法施行規則(昭和四六年厚生省令第三五号)四条)、「産業廃棄物処理施設の維持管理基準」(同法一五条二項、同法施行規則一二条)を設定しているが、さらにこれらの基準が徹底するように、各地方公共団体宛に通知、通達を発しまた照会に対して個別に回答して、援助・指導等を行なつている。

また、国立公衆衛生院による公衆衛生技術者の養成訓練を行なつている。すなわち、国立公衆衛生院は、厚生省の附属機関であつて(厚生省設置法一五条)、公衆衛生技術者の養成訓練並びにこれに対する公衆衛生に関する学理の応用の調査研究をつかさどることをその目的としているが(同法一七条)、その一環として、地方公共団体において公衆衛生行政に従事する技術者に対し、公衆衛生各般にわたる養成訓練を実施している。廃棄物処理行政に従事する被告高知県の職員(保健所の職員を含む。)でこの養成訓練を受けた人員(昭和三六年以降)は次のとおりである。

課程

学科

人数

基礎課程

環境衛生学科

五名(四六年度一名、四七・四八年度各二名)

特別課程

衛生工学科

四名(三八・三九・四一・四七年度各一名)

衛生監視学科

二名(三六・四一年度各一名)

以上のとおり、被告国は、国立公衆衛生院による公衆衛生技術者の養成訓練をとおして、地方公共団体に対して廃棄物の処理に関する技術的援助を行なつているのである。

また、被告国(厚生省)は、廃棄物の処理に関する技術開発を図るために、大学・学識経験者等に委託して廃棄物の処理に関する調査、研究をしている。

以上のとおり、被告国の技術的及び財政的援助に懈怠があるということは到底できない。

よつて、被告国は不法行為責任を負ういわれはない。

(被告南国市、被告高知県、被告国の反論)

2  漁獲高の減少について

我が国沿岸漁業における漁獲高の低下は、高知県のみならず全国的傾向であつて、特に浜改田地先だけの傾向ではない。殊に漁獲高の減少は逆に品不足から漁価の高騰を招来し、売上高そのものは減少を来たさないから原告ら主張の損害は認められない。

3  慰謝料の請求について

原告ら主張の損害というのは精神的損害を除けば、漁獲量が減少したということであり、しかも漁獲量というのはそれ自体に意味がある訳ではなく、これを金銭に評価した財産的価値に意味があるのであつて、それが原告らの損害というべきである。

したがつて、そのためには何はさておき、その財産的損害の填補を求めるべきであり、財産的損害の場合は、財産的填補のほか、精神的損害に関する慰謝料の請求は許されないところである。

すなわち、財産的価値が侵害された場合には、一般には精神的損害は、財産的損害の裏に隠れており、財産的損害が賠償されれば精神的損害も回復されたとみるべきであり、法律的には財産的侵害行為があつた場合は通常生ずる損害は財産的損害であるというべきで、その外に、はみ出した精神的損害があつても、それは特別事情による損害として当事者に予見可能性のある場合にのみ賠償を求めることができるにすぎないのである。

しかも、原告らはその主張自体において填補を求めるべき損害額の確定ができないというのであるから、填補額の確定のできない損害の慰謝料請求ということには重大な論理的矛盾がある。

四  被告らの時効の抗弁

原告組合は昭和四三年三月から昭和四七年一月までの間の損害賠償を請求しているが、本訴提起の日である昭和四七年四月二四日より満三年以前の損害すなわち昭和四三年三月から昭和四四年四月二四日までの損害は消滅時効が完成しているので、右時効の援用をする。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三  証拠<略>

理由

一原告らとその漁業権

請求原因1項(一)(原告組合とその漁業権)の事実及び同項(三)のうち原告船曳網漁業者とその漁業許可の事実は当事者間に争いがなく、同1項中その余の事実は、<証拠>によつて認められる。

二侵害行為

請求原因2項(一)(後川と放水路)の事実及び同項(二)(廃棄物とその放出)の事実中、後川に古ビニール等の廃棄物が流入し、これが第一、第二放水路を通じて浜改田地先海域に流出したことは、その量の点を除いて、当事者間に争いがない。

被告らは、右海域に堆積、浮遊する廃棄物は、第一、第二放水路を通じて流出したものは僅かであつて、右海域の東部に流入する物部川本流及びその他の河川から流出し、海流に乗つて浜改田地先海域に到つたものがほとんどである旨主張する。

<証拠>を総合すれば、昭和四三・四年ごろから古ビニール等の廃棄物が原告らの漁場に堆積、浮遊して原告らの漁業の操業に障害を及ぼすことが強くいわれだしたが、同様のことは、浜改田地先のみならず、土佐湾沿岸海域一帯においても認められ、第一、第二放水路からのみならず、物部川本流及びその他の河川から流出した古ビニール等の廃棄物が海流に乗つて土佐湾一帯に流出、堆積したことが認められる。しかし<証拠>によつて認められる、浜改田地先海域は、他の海城よりも廃棄物の浮遊、堆積が多量であり、このことは後川の第一、第二放水路の流水が直接原告らの漁場に向けて排出される関係にあつたためであること、<証拠>により認められる、昭和四七年春ごろ、原告組合において第一、第二放水路吸水口水門に設置した金網に一日数トンに及ぶ古ビニールを主体とする廃棄物がかかつたこと、同証言及び原告浜口嘉吉本人尋問の結果により認められる、浜改田地先海域における廃棄物の分布は、放水路放水口周辺にもつとも多量に存在しているものであること並びに<証拠>により認められる請求原因2項(二)記載の掃海の結果とを総合すれば、浜改田地先海域に浮遊、堆積する古ビニール等の廃棄物は、そのほとんどが後川第一、第二放水路から流出しているものであると認めるのを相当とする。

<証拠>によれば、第一、第二放水路から流出した古ビニール等の廃棄物は、昭和四〇年ごろから、浜改田地先に堆積、浮遊するようになり、昭和四三・四年ごろからますますその量が増加して、原告組合員らの操業の網にかかつて操業に支障を与えるようになり、昭和四五年ごろからはその量がさらに増えて、ビニールがスクリューにまきつき、あるいは網に多量のビニール等がかかつて船が動かなくなつたため、原告組合員らは操業を中止して、海に入つてビニールを取り除き、また網を陸揚げして廃棄物を取除く作業に操業時間を奪われるなどその操業が妨害されるに至つたこと、および漁獲物が混入したごみのため商品価値を失うに至つたことが認められる。

三被告らの損害賠償責任

(一)  被告南国市の責任

最近における消費生活の向上、産業活動の拡大に伴い、排出される各種の廃棄物はぼう大な量にのぼり、質的にも処理の困難な物質を含み、公害発生の原因ともなつている状況に対処するため、従前の清掃法(昭和二九年法律第七二号)は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四五年法律第一三七号、昭和四六年九月二四日施行、以下廃棄物処理法と略す。)によつて全面改正された。

本件は廃棄物処理法施行の前後にまたがつて発生した事件であつて、廃棄物処理法施行前は清掃法の、廃棄物処理法施行後は同法の適用をうけるものであるから、右二法に基づき、被告の賠償責任につき判断する。

地方自治法二条二項、同三項七号、同四項の各規定により、清掃事務は市町村の固有事務とされているところ、清掃法は一定の清掃事務に関しては、市町村にその事務処理を義務ずけている。すなわち、清掃法二条一項によれば、「市町村は、つねに清掃思想の普及を図るとともに、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方法の改善を図る等清掃事業の能率的な運営につとめなければならない」ものとされ、同法六条一項によれば「市町村は、特別清掃地域内の土地又は建物の占有者によつて集められた汚物を、一定の計画に従つて収集し、これを処分しなければならない」ものとされている。

本件古ビニールおよび家庭用ごみは右の「汚物」に該当し、また右にいう特別清掃区域とは、市においては原則として全域であり、ただ県知事の指定する区域は除かれる(同法四条一項)が、本件においては、<証拠>によれば、後川流域は清掃法の規定する特別清掃地域に属することが認められる(乙三九号証によると、告示の上では除外地域があるかのごとくにみられるが<証拠>によると、被告南国市においては特に除外地域として取り扱つた地域はないようである)。

右の特別清掃区域についての汚物の収集、処分は、前記清掃法によつて市町村に課せられた法律上の義務であり、この事務を合理的範囲を逸脱して怠つた結果、第三者に損害を与えたときは、故意、過失の認められる以上、国家賠償法一条一項により損害賠償責任を負うものと解する。

次に廃棄物処理法に関していえば、同法四条一項によれば「市町村は、つねに清掃思想の普及を図るとともに、廃棄物の処理に関する事業の実施にあたつては、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならない」ものとされ、同法六条一項によれば、「市町村は、その区域(市町村長が政令で定める基準に従い指定する区域を除く。)内における一般廃棄物の処理について、一定計画を定めなければならない」ものとされ、同条二項によれば、「市町村は、前項の規定により定められた計画に従つて、同項に規定する一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分しなければならない」とされている。ここに一般廃棄物とは産業廃棄物以外の廃棄物をいい(同法二条二項)、家庭排出のごみがこれに当る。右の一般廃棄物の収集、運搬、処分の義務は、市町村に課せられた法律上の義務であつて、市町村がこの事務を合理的範囲を逸脱して怠り、住民に損害を与えたときは、その損害賠償責任を負うものと解される。

また、農業用ビニールは、同法二条の「産業廃棄物」に該当し、その排出者たる農家自らが処理しなければならない(同法三条)のが原則であるが、一般農家の廃棄物処理能力には限界があり、市町村の適切な指導、援助が望まれる。これに対応すべく同法一〇条二項には「市町村は、単独に又は共同して、一般廃棄物とあわせて処理することができる産業廃棄物その他市町村が処理することが必要であると認める産業廃棄物の処理をそ事務として行なうことができる」と規定されている。

右の規定は、「できる。」という形で規定されているが、前述の如く、清掃事務は地方自治法により市町村の固有事務とされているから、たとえ事業者がその処理の第一次責任者である産業廃棄物であつても、事業者において適切な処理がなされていない場合には、その収集、処分について市町村に何ら責任がないとはいい得ない。前記のとおり同条は「できる」という形式で規定されており、同条による産業廃棄物の処理は市町村の自由裁量に委ねられているとも解されるが同条は本来産業廃棄物による公害防止の必要上市町村に与えられた行政上の権能であるから、産業廃棄物から発生した公害の程度、被害の状況等の客観的事情が市町村の対策を必要としている場合には、市町村は理由なくこれを放置することは許されないのであつて、市町村が合理的根拠なくして右権能の行使を著しく怠り、その結果住民に損害を与えた場合には、市町村は損害賠償義務を負うものと解する。

よつて、次に被告南国市の処理義務違反の有無につき判断する。

<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

後川は、左岸南国市浜改田字山ノ端一〇三八番地先、右岸同市浜改田字岩坂七四七番地先から、海岸線に平行して西に向い、物部川河口付近で物部川に合流する一級河川であつて、その勾配は極めてゆるく、第一、第二放水路が設置されているが、その両放水路に流入する流水は、錆野川及びその上流をなす小川、農耕用水路等からの流水である。これらの流域は、香長平野の三分の一にも及び、その殆んどは水田であるが、ところどころビニールハウスによる園芸が行なわれている。

南国市におけるビニールハウスによる施設園芸は、昭和三八年ごろから盛んとなり、昭和四五年ごろには園芸面積約一五〇ヘクタール、年間使用ビニール量は推定三〇〇トン位に及び、園芸用ビニールは毎年張り替えられるが、これら古ビニールの処理は農家の手許では困難であつたため、農家によつて川に投棄され、あるいは田、あぜ、堤等に山積されたまま放置された状態にあつたものが大雨の際流されて後川に流入し、いずれも第一、第二放水路を経て、原告らの漁場に流入し、堆積、浮遊し、その結果原告らの漁業に前記のような障害を及ぼすに至つた。

右の事態に対し原告組合員らは、昭和四三、四年ごろから被告南国市の水産課に古ビニールの除去について陳情におもむき、その後市議会議員を通じて陳情し、昭和四六年には、操業中の網にかかつたビニール等の情況を被告南国市の職員を呼び写真にとつてもらい、同年一〇月初旬には、ビニールのかかつた網を南国市役所に持参し、陳情した。

かかる原告らの動きに対し、被告南国市は昭和四六年一月より河川清掃人二名をおき、二トンダンプ一台を配置して、常時南国市内各河川の清掃とビニール類の収集並びに処理に従事せしめ、同年六月ごろより各河川に河川監視人五六名をおき、河川に対する不法投棄の防止措置をとり(ただし、二トンダンプによる後川の清掃は、後川橋周辺のみであり、河川監視員は後川には置かれていない)、市内における農業用古ビニールを一定の場所に集めて、これを吾川郡春野村の日本樹脂化学株式会社に運搬処理することの指導、宣伝を行ない、海岸線に投棄された古ビニール等廃棄物の処理につき、被告南国市の職員自らブルトーザーを用いて度々清掃に従い、昭和四五年一一月には、市費一八〇万円を投じて業者を雇い、清掃に従事せしめ、昭和四六年四月一六日より四日間、職員三五名河川の清掃に従い、その他廃棄物の不法投棄の防止、古ビニールの回収については、昭和四五年一〇月ごろより広報車二台をもつて広報宣伝を行なつた。

更に被告南国市は漁場障害物除去費用として、昭和四四年度、四五年度に市費各六〇万円を、原告組合および十市、久枝、香西の各漁協に交付し、昭和四六年度においては、高知県全域についての高知県漁場維持対策協議会が組織され、県費一二〇〇万円、市町村負担分六〇〇万円(被告南国市負担分五七万九〇八六円)、その他高知県園芸組合連合会負担分をあわせて計二四〇〇万円の予算をもつて、右協議会を主体として漁業障害物除去のための掃海を行なうこととなり、原告組合に対しては一一〇万八八四二円が支払われ、掃海事業が行なわれたほか、同年度において原告組合に対し八万三一一四円を海岸地帯廃棄物処理費として支出し、昭和四七年度においては、高知県が主体となつて漁場維持対策事業を行なうこととなり、被告南国市は県よりこれが実施の委託をうけ、漁場維持対策費として県よりの交付金と市費をあわせ一八一万万七〇〇〇円を原告組合に交付した(ただし、本件訴提起後である)。

また、古ビニール回収についての園芸農家に対する対策には、被告南国市の農林園芸課が当たり、昭和四四年九月下旬結成された「南国地区園芸用古ビニール等処理対策推進協議会」の組織を通じて園芸農家の古ビニール回収に努力し、また古ビニール回収の方法として、古ビニール集荷場所を定めて、農家をして古ビニールを集めさせ、春野村所在の日本樹脂化学株式会社に再生処理させる方法をとり、その処理費は、被告南国市、高知県園芸用古ビニール等処理対策協議会、農家が負担し、昭和四四年度において古ビニール二万五三六六キログラム、昭和四五年度には二二万一一〇〇キログラム、昭和四六年度には四〇万七六五〇キログラム、昭和四七年度には一〇三万八六六〇キログラムを回収した。その他被告南国市農林園芸課において、園芸農家に対し、古ビニールの処理についてのチラシを配布した。

しかし被告南国市の前記の措置によつては浜改田地先海域の古ビニールは一向に減少しなかつたため、原告組合員らは、廃棄物回収のため自衛策として、強行手段に訴えることとし、昭和四七年三月一六日第一放水路吸水口水門前に大型の金網を設置し、同月二五日には第二放水路吸水口水門前にも同様の金網を設置したところ、右金網にいずれも多量の古ビニール等の廃棄物がかかり、これをきつかけとして、同年四月六日、原告組合長と、南国市長、高知県河川課長との間で、同月一〇日の日没までに被告南国市において放水路上流に新しく網を設置する旨の覚書が作成され、原告ら設置の金網は一旦徹去されたが、被告南国市が前記覚書に基づき設置した網が実際には鉄柵にすぎずその鉄柵も河床部分との間に隙間があつて多量の廃棄物がその隙間より漁場に流入したため、同月二一日、原告組合員らは再度両吸水口水門前に金網を設置し、同月二四日、本件訴を提起し、同年五月六日、原告組合長及び南国市長、高知県知事との間に、河川しゆんせつを積極的に実施する等の覚書が作成され、原告ら設置の金網が除去された。

前記水門封鎖問題をきつかけとして、昭和四七年四月、被告高知県は全県下の古ビニールを一掃する計画をたて、同年六月一一日ごろ市町村その他の関係団体、農民らを総動員して古ビニールの回収処理を行ない、その回収量は六〇〇〇トン以上に達し、また被告南国市は、同年四月未二五〇トン余を回収し、また前記全県下清掃により三〇〇トンを超える量を回収し、昭和四八年三月末までに計一〇〇〇トン余を回収し、また前記のとおり同年八月、被告高知県が被告南国市に委託し、被告南国市はさらに原告組合に委託し、被告高知県、被告南国市より合計一八一万七〇〇〇円を原告組合に交付し掃海を実施した。以上のような掃海の結果、古ビニールはほぼ完全に除去され、その後は古ビニールによる漁業の障害は殆んどなくなつたことが認められる。

以上の事実よりすれば、本件古ビニールは事業者である農民がその使用ずみ後、これを田、あぜ、堤等に放置し、あるいは更にそれが大雨等によつて流されるなどして、事業者の占有管理を離れ、従つてその処理責任者が不明となり、事業者の処理に任すことが不可能な状態にあり、しかもこれが多量に原告らの漁場に浮遊、堆積して、原告らの操業に前記のとおり深刻な障害を与えるに至つたのであるから、このような場合において被告南国市は廃棄物処理法一〇条二項に基づき右廃棄物の処理を自己の事務として行なう義務があるところ、前記認定のとおり、被告南国市が古ビニール等廃棄物処理対策をともかくもとるに至つたのは、昭和四五年八月二一日の十号台風以後のことであり、また、十号台風以後も水門封鎖に至るまでは一応の対策をとつたとはいえ、その対策に徹底性を欠き、漁場における古ビニールの堆積、浮遊はさして減少することなく、水門封鎖事件を経て本訴提起があるに至つて、漸く本格的な清掃に着手し、その実績をあげるに至つたもので、水門封鎖事件及び本訴提起後の掃海により、前記のとおり多量の古ビニールを回収し、漁場の障害が消滅している事実は、却つてそれ以前における被告南国市の清掃が著しく不十分であつたことを物語つているといえる。特に、南国市内の年間使用ビニール量が前述の如く昭和四五年ごろには推定三〇〇トン位とみられるのに、昭和四四年度の古ビニールの回収量は二五トン余にすぎず、昭和四五年度に二二一トン、昭和四六年度に四〇七トンの回収量であつたのに対し、いわゆる水門封鎖事件後の昭和四七年度については一〇〇〇トンを超える回収量があつたことは前記認定のとおりであり、この点からも相当多量の古ビニールが放置されていたものというべく、以上の事情からみて、被告南国市は古ビニールの回収を著しく怠つて原告らに損害を与えたものというべきである。

被告南国市は、後川流域、特に第一、第二放水路の各吸水口地帯は、地盤が極めて低いため、ある程度の雨で付近の田畑がよく冠水し、農作物や敷わら及び古ビニールが自然に流れ出るのであつて被告南国市の清掃行政の懈怠によるものとはいえないと主張する。

しかし、古ビニールが流出するのは増水時であつても、園芸用ハウスからビニールを取りはずした後、増水時までの間は、それらのビニールは放置されたままであつたと推測されるのであつて、被告南国市はその回収をなしていないことに関する責を免れない。

よつて、被告南国市は国家賠償法一条一項により原告らに対し後記損害を賠償する義務あるものというべきである。

(二)  被告高知県、同国の責任

原告らは、河川は、家庭用ゴミ、農業用ビニール等の廃棄物が流入しないよう保全し、流入した場合には速かに除去し、河床に泥土、汚物が堆積したり、流水が逆流したりしないように設置、維持、管理し、いやしくも河口から、流域に廃棄物を流出させないようにし、もつて漁業の操業を妨害しないようにしなければならないと主張し、被告高知県、同国は、その設置に瑕疵はなく、また河川管理の目的は、河川法一条に規定されているところ、原告ら主張の義務を課することは河川法の目的を逸脱するものであると主張する。

そこで考察するに、農業用ビニール及び家庭排出のごみは、清掃法、廃棄物処理法によりいずれも河川に投棄することを禁止されており、河川管理者としても、できうる限り、右行為の防止に努めなければならないことは当然である。そして、河川法一条によれば、河川法の目的は、「河川について、洪水、高潮等の災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、及び流水の正常な機能が維持されるようにこれを総合的に管理することにより国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ公共の福祉を増進すること」にある。流水の正常な機能を維持するために河床のしゆんせつ等が義務づけられることは勿論のこととして、右規定に「洪水、高潮」等による災害の発生と規定するのは、河川に関して通常生じる災害を例示的に規定したにすぎず、「等」という語が付加されているところからいえば、本件のごとく河川の流水とともに海中に流入した多量の廃棄物による漁場荒廃、漁業障害も右「災害の発生」のなかに含まれるものと解し得るのみならず、沿岸漁業等振興法三条一項一号、四項及び公害関係諸法(特に水質汚濁防止法)水産資源保護法(特に四条一項四号参照)の各規定に照らして考えれば、河川の総合的管理として、漁場に多量の廃棄物が流出することのないように適切な措置をとることが義務づけられているものと解される。

従つて、河川管理者たる高知県知事(後川が一級河川で国の所有に属し、国は右後川を建設大臣に管理させ、同大臣は右管理を高知県知事に委任していることは当事者間に争いがない)は河川管理上の措置として、河川の流水とともに多量の廃棄物が漁場に流入することのないよう、河床をしゆんせつして疎水をよくし、更には適当な金網等を設置して流水中の廃棄物を除去するなど適切な方策をとる義務があるものと解する。

しかるに、<証拠>によれば、高知県知事は、河川管理として右のような措置をとることなく、後川河床にはいわゆる水門封鎖事件までは古ビニール等の廃棄物のまじつた泥土が多量に堆積し満足なしゆんせつのなされないまま疎水が妨げられ(被告高知県の主張する昭和四七年五月一〇日より昭和四八年三月三一日までの間三回にわたる大規模な河床しゆんせつは本訴提起後のことである)、降雨時には容易に冠水状態になり、多量の農業用ビニール、肥料袋等を流出するにまかせたものと認められるから、後川の管理につき瑕疵があつたものといわざるをえない。

よつて、被告国は国家賠償法二条一項に基づき、被告高知県は同条および同法三条一項に基づき費用負担者として(後川の管理費用はすべて被告高知県の負担であることは当事者間に争いがない)、原告らに対し後記損害を賠償する義務がある。

四損害

(一)  原告組合の損害について

<証拠>を総合すれば、原告組合員らは、その採捕した「しらす」をすべて原告組合を通じて販売し、その手数料は、昭和四三年、四四年度は各四パーセント、昭和四五年、四六年度は各五パーセントであり、その漁獲高は請求原因4項(一)(3)記載のとおりであると認められる。

原告らは、漁獲量が本件廃棄物のため二〇パーセント以上減少し、原告組合の手数料も二〇パーセント以上減少したと主張する。

<証拠>を総合すれば、原告組合員らの操業は、本件廃棄物によつて前述のとおり支障を受け、その為昭和四四年三月以降昭和四七年一月末までの間に、ごく大まかにいつておよそ二割程度の漁獲量の減少を来たしたものと認められる。

原告らは、昭和四三年三月以降二〇パーセント以上の減少があつた旨主張するが、これを認めるに至らない。

被告らは、我が国沿岸漁業における漁獲量の低下は全国的傾向である旨主張するが、そのような傾向と関りなく、廃棄物の存在に基因する漁獲量の減少として右の如くであつたものと認められる。

また被告らは、漁獲量の滅少は漁価の高騰を招来し、売上高の減少、収入減を伴わないと主張するが、<証拠>によれば、魚価に対する影響としては、県外の漁獲高が最も大きく作用することが認められ、原告組合員らの漁獲量の減少は、売上高の減少、従つて収入の減少に結びつくものと認めるべきである。

そうすると、昭和四四年三月から昭和四五年一月までの間に原告組合員らの操業障害のなかつた場合の売上高を甲とすれば、

甲−甲×0.2=28938959であるから

甲=28938959×1.25となり

減少した売上高乙は、

乙=甲−28938959=28938959×1.25−28938959=28938959×0.25となる。

よつて、その減少した売上高に応じて得られるはずであつた手数料丙は、

丙=(28938959×0.25)×0.04である。

右の計算方法を適用すると(昭和四五年、四六年度は五パーセントを乗ずる)、減少した手数料は、昭和四四年三月から昭和四五年一月末まで

二八万九三八九円

昭和四五年三月から昭和四六年一月末まで 五六万四八四一円

昭和四六年三月から昭和四七年一月末まで 五八万八九三〇円となる。

よつて、原告組合の蒙つた損害は計数上は右の合計額一四四万三一六二円となるのであるが、これは一応の計算上の数額としての損害のめやすであつて、原告が現実に右の損害を蒙つたと認定するのは困難である。

よつて、諸般の事情を考慮し、当裁判所は原告組合の昭和四四年四月二四日ごろ以降昭和四七年一月ごろまでの損害(後記五参照)は一〇〇万円を下らないと認める。

(二)  原告組合員らの損害について

前記認定の事実によれば、原告地曳網漁業者、同船曳網漁業者は、被告らの前記不法行為により前記のとおり昭和四四年三月以降昭和四七年一月末までの間およそ二割程度の得べかりし利益を喪失したほか、操業の妨害、漁場の荒廃のため、漁民として自己の漁業の将来につき不安を感じるなど精神的苦痛を蒙つたことが認められるが、他方水門封鎖事件以後における河床のしゆんせつ、掃海等の結果、古ビニール等廃棄物はほぼ完全に除去され、古ビニールによる漁業の障害も殆んどなくなり、現在では漁獲量も増加しつつあることが認められる。これらの事実を総合すると、慰謝料額としては各五〇万円が相当である。

被告らは逸失利益を慰謝料として請求することは許されない旨主張をする。しかし、本件のように不法行為による損害賠償に関し、財産上の損害のあることは確実であるが、その立証が不能あるいは著しく困難なため、これを財産上の損害として請求することができないときには、結局財産的損害は填補され得ないで終ることとなり、それだけ精神的苦痛も慰謝されないのであるから、これを慰謝料算定事由の一としてしんしやくし、慰謝料額に含ませて請求することは許されると解する。

五時効の抗弁について

昭和四四年四月二四日までの原告らの損害は消滅時効が完成している旨の被告らの主張は理由があるので、前記原告らの損害の認定については右時効分を除いた。

六結論

以上により原告らの本訴請求は、原告組合につき金一〇〇万円、その余の原告らにつき各金五〇万円、および右各金員に対する不法行為後である昭和四七年五月二日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、仮執行免脱宣言については必要がないから却下し、主文のとおり判決する。

(下村幸雄 高橋水枝 青木正良)

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